取り残された乙女たち
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発行者:日向章
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ジャンル:その他

公開開始日:2010/06/25
最終更新日:---

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取り残された乙女たち 第8章 獣たちに身を委ねて
 地面を掃き終わり、首にかけたタオルで額の汗を拭うと、絵里は片づけを終えた鶏舎を眺め渡した。  男に連れてこられたのは、集落の一角にある養鶏農家だった。  短大二年生になるこの年まで畜産に縁がなかった彼女は、ずらりと並ぶブロイラーたちの鳴き声と独特の臭気に初めてふれたとき、思わず後ずさりをしてしまった。  しかしやがて匂いにも慣れ、軍手姿で鶏舎の地面を掃いているうち、作業に没頭するようになった。  震災に襲われたにしては鶏舎の被害は思うほどひどくはなかった。  鶏たちは震災のショックで何羽か死んでいたが、割れた卵の数もそう多くはなく、片づけるのにそれほど手間は掛からなかった。  鶏舎の端にいる相棒の春菜の姿が視界の端に映った。  自分と同じく首からタオルを下げて、軍手をはめた手で重そうな餌袋を片づけている。  同じ年の十九歳だが、自分よりほっそりして肌のきめが細かい、かわいい娘だ。  連れてきた男も自分より春菜のほうにちょっかいを出したがっているように見える。  それはそれで女として悔しかったが、いまのところ男も真面目に復旧作業に励んでいて、自分たちを性的にいたぶろうとはしていない。それが不思議だった。  そんなことを思った矢先に、外でなにかをしていた男が鶏舎に入ってきた。  絵里と春菜を交互に見て声を掛ける。 「おーい、そろそろひと区切りしようや。外に出てこいよ」 「あ、はい」「分かりました」  少女たちはそれぞれほっとした表情を浮かべる。  慣れたとはいえ、正直この中の匂いと熱気には閉口していたのだ。  ところが、男から意外な指示が届いた。 「出る前に、いくつか卵を取ってこいよ」 「卵を、ですか?」  絵里と春菜は顔を見合わせ、首を傾げながらも鶏たちが並ぶ柵に歩いた。  卵なら、そこにたくさん産み落とされている。  体育館の皆のところに持っていくのかしら。  そう思いながら二人は黙々と卵を集めた。  ころころと転がる卵を大きな袋に入れ、二人で抱えるようにして外に出た。  途端に新鮮な空気に包み込まれ、少女たちは歓喜の表情でそれを胸いっぱいに吸い込んだ。  初夏の爽やかな風には、かすかに緑の香りが紛れ込んでいる。
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